魔の満月 詩篇「恋の衍義」 (蝸牛の胎には女が宿っている……)

恋の衍義

蝸牛の胎には女が宿っている
糠雨のしとね
妖しい濛気に擁かれる 紫陽花
その重たげな葉叢の奥に
伝説の古城が変幻している
若者は華奢な指で
水晶のように透明な殻をつまみあげる
渦巻の行手は
恋する死女の枢であろうか
若者の反り返った真紅の唇から
微苦笑が洩れると
幽厲ゆうれいの織りなす緞帳によって
なお
一層の闇に封じられる

(初出 詩誌『地獄第七界に君臨する大王は地上に顕現し人体宇宙の中枢に大洪水を齎すであろうか』創刊号 略称フネ/昭和50年刊/発行人・紙田彰/初出誌ではタイプ活字の代替のため「恋の演義」、また坂西眞弓作としてある 1975)