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脂の浮いた甲を包む、赤いエナメルの靴
地下鉄が空を走るなんて!
まつわらぬ糸の女の顔を思いながら
高架の下を歩いていると
通り過ぎる友人に気づいた
楕円形の好きな男である
白い指で笛をあやつる男は
ときおり茨で編んだ冠をして
牛とか羊が好きだとも言った
まじめな聴衆を嚇すように
星の囚人列車! と叫ぶと
男は背を丸めて笛を吹いた
光は硬い、そして二度と出会わない
樹木は灰になり、黒衣の女は自殺する
そう考えて、男は調子っ外れの音を発した
哄笑の中で、膝を屈めて
この思いを人は知らないのだと悟った
男は鰐皮の鞄を抱えて
船員のように走り去った
高架の下で見た横顔には
希望がロープでくくられたような
死の匂いが沁みている
道筋の向うには糸のような月
その下で
夜の森と肉色の街の灯が接している