不眠の森――「dance obscura(仮)」へ

 細密画家「しかし、私の用いるイメージの素材はそれぞれの存在の目的・理由とは無関係に、ミクロの世界では肉眼では見ることはできないし、機械的な方法を使っても到達はできない。数学的な手法、物理学的な思考を使う以外には」
 サディ現象「サイズの大きくなったマクロ的世界では空間認識、時間認識の巨大な組み合わせを抽象化することで、風変わりな作品行為として実在するのだろうか。しかし、素材それぞれの場所からはその大きさの世界の把握は不可能で、作品といわれるものの存在も無意味であり、実在してはいない。実在は経済だからだ」
 細密画家「たしかに、色は光だから、光の色に境界線はないという見方もあるが、皮膜の変種である棘はそれ自体境界なのかどうか。しかし、本当に境界はないのかもしれない。溶けている状態としてあるために」
 サディ現象「それにしても、たしかに自動的に筆記具が律動していると、おまえのいうように、棘のある異物として生命の輪郭を犯している、あるいは光と色の秘密に近づき、見るという概念を撹拌しているという感覚が昂じてくる。その中で、たったひとりで世界と拮抗しているという芸術的高まりを覚えるのも事実なのだ」