連載【第035回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: sleepless forest 1

 sleepless forest 1
 その森に迷い込んだときに、ある種の体系に毒された執拗な夢が送られてきた。それは、攻撃といってもいいかもしれない。その夢は、たしかに脳髄と神経システムの根幹を支配するDNA生命体がつくりだしたものである。

 飛膜のある翼を広げた男は、すでに死んでいるという噂はあった。それが数千匹の中の一匹なのか、森に住む数千匹の動物が一匹なのかは定かではない。
 数カ月前には、蝙蝠は死んでいるという予感もしていたが、確証を得る方法がなかったので、あてにならない郵便物や電話などを繰り返し送っていたのだが、やはりさまざまの不通の証拠が示されたに過ぎなかった。
 ダリあるいはサディと呼ばれるそのオオコウモリは、突然夜中にやってきて、どのような事情なのか、死亡日時も明かさずに、画家の名にちなんだ非日常的な音のない声を鳴らしていたのだ。もちろん、ばらまいていたのはそればかりでない。夢を作り出す夢の細胞とか、夢の核心である夢のDNAといったものなどである。死と死にまつわる闘いの秘密にも触れながら。
 そこらをごろごろ動き回る独立したサディの頭部、あらゆる細胞に均一に重なるDNA。際限のない「サディ現象」の繰り返し。生命とは、生命の現実とはそのような執拗さがなければならないとでもいうように。そして夜の暗箱がますます濃密になる。
 そう、そろそろ、触れなければならないところにきたのだ。

 生殖細胞、癌細胞の増殖の驚異的な速度、勢い。私だけではなく、身辺の人間にも狙いをすまして、凄まじい弾丸の嵐を浴びせてくる。樹状突起を激しく活動させて、組織の中を、血管の中を移動して、定着していく細胞たち、変異する遺伝子たちよ。(つづく)