連載【第057回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: nightmare I: 〈skeleton〉

 nightmare I

 〈skeleton〉
 富裕な階層、特権的な人種、マジョリティの中の数少ない上位者、悪を悪とも恐れぬセレブリティ。発現する万物を吸い取る暗い眼窩、その奥で光る瞳の数だけの欲望。出現するものすべてに価値と等級を与える者たち。汝らの人生とは経済だけだ。その魔手が川底を浚いつづけて。
 あまたの詐欺、詐欺師に、騙されつづける暮らし、すり替えられる人生。古典的な、電話による勧誘から増幅され、ぶよぶよしたネットワークとなってたるみつづけ、地球の皮がべろりと裏返る。仕掛けが多いほど袋小路に追い込まれるのだ。新しい手口にはついていけないが、肉感的な通路は欲望をそそる。隣で肌寄せて、若い男女に手でも握られ囁かれれば、騙されても後悔などはしまい。暗がりの、鍵のかかった密室で柩に寝かされても、静かに死ねるというもの。死神の誘いとはそのように訪れる。ああ、下腹部をさぐる骸骨の指。

 犯罪、凶器、薬物。中毒者たちの深い闇。犯罪を犯罪ならしめるのは、いうまでもなく〈法〉への抵抗としてである。社会的規範とは倫理的規範などではなく、あくまで〈法〉による拘束に起因している。つまり、〈法〉の存在があらゆる罪の原因なのだ。罪は〈法〉によって生産され、人間の本性的な倫理性と関わっていることなどありえない。善も悪もない。自然法などは反自然だ。まして作為的に罪状を列挙し、犯罪者を捏造する〈法〉は、おのずから抑圧と服従による支配を強要し、これを受容する奴隷社会を制度化するものだ。つまり、社会、国家の支配を構築するために、権力の根拠を捏造しているにすぎない。〈法〉の整合性とは、弁明と詐術の連鎖によって永遠の虚偽の井戸を掘り続けることだ。もちろん、倫理的規範などもこの井戸の穴のひとつでしかない。

 刃物、拳銃、爆弾は、攻撃手段であるばかりではなく、自死をも臆することなく、自らの奴隷性をも否定する、個的行為による対抗手段である。そこには世界か自分かを二者択一せざるをえない終末観がある。これを禁制とするのは、いわれなき国家制度が、権力機構が、反乱と抵抗を恐れて未然にその行使を防止せんとするからで、自国民の自由・権利を守るためなどというのは空念仏にすぎない。反乱のための実行行為は、肉体を武器にしてさえも現前させる合理性がある。あらゆる犯罪、凶器は合理的であるといわざるをえない。あらゆる精神疾患でさえ、存在と「制度という非合理性」との矛盾の衝突である。いずれにしても、あらゆる犯罪の母胎は法と国家にある。(悪夢I〈骸骨の指〉)