魔の満月 詩篇「神の手」 (その色彩を愛するものにとって……)

神の手

その色彩を愛するものにとって
深い夜は幸福である
天文台の円天井は四大に囲繞され
アルタミラの洞窟は
母の袋のように癸水きすいにあふれ
蕙樓けいろうには黒耀石でできた大鳥が向う
だがなんという掌の変事だろう
真夏の毒に熟れた天球は
肉と鋼とを秘めた剣のように
宿命の悲恋を祝いでいる
識神は
夢の筒なる旅路へと
生贅たちを導いてゆくのだろうか
あの澄明な空を逝く満艦飾の星々のように

(初出 詩誌『地獄第七界に君臨する大王は地上に顕現し人体宇宙の中枢に大洪水を齎すであろうか』第2号 略称フネ/昭和50年刊/発行人・紙田彰/初出誌では坂西眞弓作としてある 1975)