(『光明日報』1989.5.15 [中青年哲学家掠影]「王鵬令」より要約。翻訳: 佐丸寛人)
現在の中国に於ける文化選択を論ず――五四運動70周年を記念して(中)
社会科学院哲学研究所 王鵬令/訳者・佐丸寛人
忌憚なく言って、人々の心理・思想にも、或は人々の行動分野にも、前近代伝統文化の歴史的沈澱物は大量に存在しており、更には重圧をも与えている。中国現代化の歩みがかくも緩慢で、道程がかくも辛苦に満ちているのは、明らかに人々の因習となっているこの文化伝統と密接な関係がある。この意味から言えば、前近代中国伝統文化にもう一度反省・批判・整理を加えるのは、我々今日の現代化事業にとって有益であるに違いない。問題は、「五四」から今までの70年、特に中華人民共和国成立以降の数十年の間に、中国の社会様相・中国人の生活様式に既に根本的な変化が生じていることである。そして、思想理論方面から見れば、この変化が集中的に現れているのは、マルクス・レーニン主義―毛沢東思想が我々の思想を指導する理論的基礎となっていることである。この根本的変化と歩調を合わせて、殆どあらゆる文化の分野がマル・レー主義―毛沢東思想によって革命批判の洗礼を受け、殆どあらゆる分野が少なくとも理論面ではマル・レー主義―毛沢東思想に基づいて再構築或は改造された。現代中国の経済と政治、道徳と法、文学と芸術ないし哲学、宗教学、更には人々の日常用語も中に含めて、殆どみな、程度の差こそあれマル・レー主義―毛沢東思想の刻印を押された。換言すれば、マル・レー主義―毛沢東思想がイデオロギー分野で指導的或は支配的地位を占めたため、またマル・レー主義―毛沢東思想にのっとって、長期間イデオロギー闘争を突出させ強調する文化政策が実行されてきたため、現在の中国文化は、総体的に言って、明らかに西洋文化でもなければ、中国前近代伝統文化とも異なる、一種独特な文化形態となったのである。その基本的特徴は、マル・レー主義―毛沢東思想を精神的中核とし構造的外郭とする。つまり、中国が今持つ文化形態は、次に述べる原則に基づいて建てられた一つの総合体或は系統なのである。すべての文化の分野は、マル・レー主義―毛沢東思想の基本的精神(階級闘争やプロレタリヤ独裁等々)を体現しなければならない。すべての文化の分野は、理論面でマル・レー主義―毛沢東思想が打ち出した基本的概念の外郭にのっとって、建設しなければならない。すべての文化の分野は、プロレタリヤ革命事業の一部として、また革命事業に奉仕しなければならない。数十年来、一世代また一世代と中国人は取りも直さずこのような文化環境或は文化的雰囲気の中で生活してきて、いついかなる場合でもその人格形成的作用を受けてきた。私は、現在の中国文化に於けるこういう現実的情況こそ、まさに我々が未来に向かって歩もうとする時、直接対面することとなる文化伝統だと思う。そしてこれこそが、現在の文化論争の根本的立脚点となるべきである。つまり、現在我々が直接対面するところの文化伝統は、過去数十年にわたる我々自身の歴史の中で、我々自身の手で積み上げてできたものなのである。しかも、今に至っても我々はなお自覚し或は自覚せずこの積み上げの過程を続けている。従って、東西文化の優劣得失を比較するにせよ、伝統文化と現代化過程との衝突を考察するにせよ、或はまた現在に於ける中国の文化発展戦略問題を検討するにせよ、我々は先ず我々自身の手で作ってきたこの文化形態に着眼するべきである。