未刊行詩集『strandにおける魔の……』11: 眼の街

眼の街

I 裂かれた眼球
うす桃色の襞すじに
街の景色が ばたばたとまり
モンシロチョウの
あやうい触角の叩く音ひとしきり
 あの日 深い欲望のうちに おれの陰茎が油を飛ばしていた
そそけよ その燃える夢の紙片
黄土色にうちしずんだ白目のやぶにらみ
ひくひくと 低い呻き声が
しだいにかさなり 日暮れの八百屋に
冷凍パセリの ぐったりした束

そのとなり
肉屋の店先に吊るされた
おれのロースの
赤い湯煙のとろりと沸きかえる
生唾のみこんで
一歩あるくたびに
西陽が突き刺さる

姉さん! おれは見たこともないあんたの名を呼びつづける 柔らかなベッドで抱きあったはずのあんたに秘密のキスマークを刻む 姉さん! あんたは生まれることのない盲のおれをいつも子宮の奥に匿していたんだ あんたはそのことを思い出さないために鋭い針金で入口を塞いだ 姉さん! おれの恋人 おれのカアサン おれの浅黒い馬鹿笑い 姉さん! 痛いよ あんたの肉がそそけて見えない みんなあんたの尖った強迫観念 悪性金属 むうっう 痛むよ 姉さん!

だから 闇
ぼっと浮かぶ裸電球の下で
おまえは胴か脚か長い鼻なのかと 警察官の職質
おれの細い眼の痕跡から
トマトソースのように垂れさがる
どんよりとした汚物