自由とは何か[007]

 ――腐りかけた足をこうして引きずりながら地を浚い、あるいは地べたを爬虫類のように滑り回るおれたちの姿を、おまえは自分自身の影であるかのように思い違いしているのかもしれないが、それはおまえ自身がおまえを見失っているか、忘却しているか、あるいは実はおれたちのことを遠い昔から知りえていたという錯誤に起因しているに違いない。おれたちは起き上がるもののすべての起源に関与している、無窮の平面に沿うものの来るべき未来に関与している。それは汚れた暗い血と得体の知れないものどもの婚礼と交合と裏切りに充ちているからだ。
 権力が婚礼を支配する――、このことを肝に銘じておくべきだ。誕生も、血の相続も、おまえを支配するものへの従属の聖痕を与えられているのだから。呪うべきはこの連綿たる影、影をつなぐ連環、永遠の過去、永遠の未来、永遠の現在を貫くもの。

 支配するものを受け入れることは許されない。屈服することは許されない。私はそのことを忘れているわけではない。権力は何にもまして狡猾なのだ。私を招き入れて抱き寄せる。そして骨抜きにして暗い夜に放り出す。重い鎖を首に巻きつけ、足枷さえも括りつけて。さらには、血のつながりをつくることであまたの奴隷を生み出すのだ。
 しかし、おまえたちは闇にありながら立ち上がるものだ。そして、おまえたちの住む地べたは土と岩だけでできているのだから。

 私は、おまえたちがなぜ、知ること、つまりすでにあることの認知とは無縁なのかを考えざるをえない。おまえたちは二次元を颯爽と滑降し、その視線の先には地べたに記されたありうべくもない系統樹がある。おまえたちこそ、すでにあったものではなく、ありえぬものの具体化に関与しているのかもしれない。与えられた(つくられた)知の発見ではなく、その〈与件の発見としての知〉のそもそもの出自を疑い、それを自らの創出によって覆すための。
 だが、それでも、私は繰り返さざるをえない。生命の連鎖、DNAの継承の前に。――滋養とさせられる存在、啖われるもの、ただの肥やしだ、亡霊になってさえも!

全面加筆訂正(2011.12.23)