寄稿: 佐藤裕子「バッドランドから」

バッドランドから 佐藤裕子

単調な声音は綴りに換え流れ出す頬骨の辺りで心許ない靄
 大理石になる水を雲と言い大伽藍と指す遥かな岩山
螺旋階段を上った展望室の窓に息吹きを受け変色した地肌
 満月の肚は純金で肥え横顔に靡く銀糸滑り落ちて肩
淡淡とした口振りが禁忌を遮る為よりも苦痛の余りならば
 風下に立ち受け取る種大角羊が産む肉と豊かな毛皮
擦れたざら紙は記録する山の男たちは空を追われ座礁した
 割符を出す商人たち九十九折を行き交う様様な言葉
更紗に包まれた花嫁は贈り物が溢れる櫃で従順に身籠った
 揚羽のような嬰児鳥の眼を持つ娘空の女に似せた姿
やがて瘴気が追い付く地上の時間の千年は過ぎ始まる千年
 雅歌は語り羊は滅び夢になる町は初めからなかった
硝子があることを忘れ伸ばした指に冷気が棘刺す鋭い叱咤
 案内人が身に着けた古来の織物は毛羽立ち羽毛の腕
髪は煙り寄り掛かる壁は苔生し擡げた爪先から始まる石化

(2016.8.4)