寄稿: 佐藤裕子「砂の上の休日」

砂の上の休日 佐藤裕子

油断は容赦しない囀り憧憬が裏返ると焦燥だけが目に付く
 通過も後戻りも嫌う観覧車が最小の苦笑で吊る口角
不躾な舌を裂傷は許す問わず語りの縁を溢れる塩辛い色水
 浮き足立つ魚類の乱反射戦ぐ血眼にはスパンコール
複写の度に劣化し増殖時に死滅する有り様も見慣れた星屑
 継ぎ接ぐ箱の中身も知らず鉄骨を組む空中クレーン
空白に置く主語は爬虫類顔で喜怒哀楽のどの方位にも転ぶ
 自惚れで計を立てる段ボール迷路解体後は神経衰弱
付箋が情緒を担い投げ挿した違和が不在証明を無効にする
 古い倉庫で煌くオルゴール取り残された抑揚も商う
蔵の土壁に大漁旗を掲げると浮き玉の浮力はアンティーク
 海霧の母たちが腱を緩め孵したサイレンを遊ばせる
後ろ手で張る罠に事欠かない微睡み捲れる笑顔はみな盲点
 膨らむ面積を移動する灯思索が追憶に紛れ礫を積む
鬱蒼と連結するシャッターは海に向かう矢印露出した地層

(2016.8.4)