寄稿: 佐藤裕子「金婚式」

金婚式 佐藤裕子

潮騒から分かれたコーラスが天鵞絨を敷く緩い勾配を上り
 庭先で迎える親密な抱擁へ華やかな微笑を返す礼儀
いつもおきれいと言い交わす女同士の狎れ合いも挨拶の内
 写真はピアノの上音符を連ね大音量で進むムービー
短い受け答えに意味深な文句不意に瞳を覗く無意味な探り
 血のソースを糖分過剰にデザインする悪趣味な味蕾
親友と呼ぶ彼女に借りがあったギフトのリボンを結び直し
 耳に付くマリーの曲交流する声波長を重ね相似の漣
失念した杖の在り処を探すより彼が彼女の腕を取る自然に
 粋な計らいテノールがお気に召したら成り行き次第
情熱に不可欠な難所は約百日を経て例外なく安全な避難先
 日常化した不法投棄の海岸を眺める冬枯れの記念日
一張羅を貸し借りし一つのベッドで寝た姉のようなお友達
 未亡人の金婚式で夫役を果たした男は依然所在不明
招待状にあった住所はステッキが立つ更地又暫く会わない

(2016.11.15)