ベルナール・パスケ(散文詩)

 しかし、ピエールが不渡りを出して数日後にヌイイーから姿を消すにいたって、パスケも大いに損をしたが、ジャンがひどく落胆し、仕事に身が入らない様子を見かねて、少年を詰問し、そのあげくひどく打ちすえたことから、ジャンばかりか、もう一人の丁稚もパスケの元から逃げ出す羽目になってしまった。世間というものは気ままなもので、こうなると一人になったパスケに対して、臆測と非難が集中する。もっとも、パスケを直接非難したり、罵倒したりするわけではなく、あくまで陰湿に、狡猾に、蔭で囁くだけだ。有毒ではあるが無毒という次第である。

 実は、パスケには、若い頃に過ちを犯したことについての悔悟があったようだ。
 三十五年前の十九の時、ある家に盗みに入ったことがある。海岸地方を旅行していたときに、ある屋敷の裏口が開いていたのでつい入ってしまったのだ。背丈ほどもあるバラが入り乱れている裏庭の小道に迷い込んだパスケは、日向の匂いのする芝生の傍らの、月桂樹の太い幹に裸で縛りつけられた女の姿を見たのだ。さすがに枝振りがよかったせいで、強い陽射しから逃れてはいたが、白い女の体はバラ色に染まっていた。
 パスケは何か気味の悪い心持ちにとらわれていたが、引きずられるようにして、女の方に向かって歩いていった。大柄な女で、まだ若いことは若いのだが、憐憫の情を抱かせるような種類の女とは違っていた。パスケは言う。「赤毛で、唇が厚く、そんな変な気にさせるような女じゃなかったよ。しかし、尻だけはこんなにでかくてなあ」遠い昔を思い出しながら、思い出し笑いをするのだった。
 パスケが縛りつけられた裸の女をじっくり眺められたのは、その女が眠っていたせいである。「気絶なんかしていなかった。わしはたしかに鼾を聞いたのだ」パスケは後に取調官に証言している。けれど、当時から引っ込み思案で、おとなしいだけの青年がそのとき、女の一人さえ知らなかったのは容易に想像がつく。肉体は肉体である。いくら美人とはほど遠いとはいえ、裸の女が目の前にいたのである。先の証言のようにはたして変な気を起こしていないとは言いきれない。