魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

エルドレは 女が女でなくなる時は死を迎えるのだと知る
五番目の最後の徳とは その玉の角の鋭さが公正さを表すことである
生命とりの洞穴で塔が哭く
一人とて遁れられない
汝は死せん滅ぼされん
散壊空の理によって 仏塔は五つの徳ともども崖下へと崩れ落ちる
ナイフ使いは飛込台から真逆様に墜落する
彼は墓に臥す
時は出発の鐘を鳴らす
田舎から出て来た新聞記者が呑屋で門前払いを喰らう
家庭教師は女の膝枕を冀い爆笑の的だ
建築家が映画の看板を熱心に見ながら腕を組む
おいおいあんまり影人形を使うなよ
小男の世界チャンピオンは純朴だ
近思録を看ながら餓死した酒客
人間は錯誤には縁のない存在である
エルドレの魂は今や数百の肉片の中に分割されている
淋巴腺が脹れ躯中に紫の斑をつくる病に罹っているに相違ない
鼠群は億千を超過している
恙虫つつがむしはその何十倍の数に達している
彼らは肋骨を包んでいる上等の脂肉をしゃぶる
この闇の底は窓から覗くしかない
下がれ 破落戸ごろつき
エルドレは生贄たちの肉とともに己れの魂が咀嚼されているのを知る
エルドレの魂は一挙に天文学的数字に分離する
魂は黒死病に罹るだろうか
鼠どもの小さな器官の中を通る
次々に排泄される
何という灰身滅智の作用だろう
精液と糞の中にエルドレは取り憑いている
造形思考は感情から生まれるのではない
汚濁は安住の地だ
世界の母胎は肛門に符合する
これは生滅四諦の法則である