連載【第086回】最終回: 散文詩による小説: Dance Obscura: dance obscura 5: 〈expression〉

 dance obscura 5

 〈expression〉
 私は幼い少年になって、若い母親と父親のかたわらで、子供の姿になった他の乗客たちと同じに、昔のとても懐かしい気持ちに浸っていた。私の目の前に現れた新しい両親は、やさしく清々しい心と体で私を導いてくれる。 続きを読む

連載【第085回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: dance obscura 4: 〈astral body〉

 dance obscura 4

 〈astral body〉
 素敵ね、あなたの歌声は。隣のベッドで死期の間近な同病者に優しく声をかける。自分はすでに喉を痛めて掠れた声なので、そう書いた手紙を渡してくれと。私は翌日に死期を迎えるあなたの優しい最後のメッセージを、隣人に手渡すことになったが、よもや、あなたが翌日に命が絶えるなどとは思いもしなかった。
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連載【第084回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: dance obscura 3: 〈revelation〉2

dance obscura 3

 〈revelation〉2
 密林が切り拓かれ、叢も刈りそろえられた土地の中央は、平坦な広場となっていた。その中に、校舎か工場のような建物が並び、白い光の下で灰色の区画を保っていた。誰かが静かに声をあげた。
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連載【第083回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: dance obscura 3: 〈revelation〉1

 dance obscura 3

 〈revelation〉1
 私たちは、それぞれペアになっている若い男女の傍らに佇む。彼らは私たちの父と母となるはずの生命の樹木。そこにそれとしてある、ただそれだけだ。粒子と反粒子とは力の均衡、力の衝突の現場なのだ。
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連載【第082回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: dance obscura 2: 〈cogitation〉

 dance obscura 2

〈cogitation〉
 思いとは忘れ去られていくのだろうか。それとも深く根を張ってまた花を咲かせるのだろうか。私は、そのいずれも正しいし、両者とも誤っていると感じている。なぜなら、それは形を保っているからだ。 続きを読む

連載【第078回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: nightmare IV: 〈mediastinal〉

 nightmare IV

〈mediastinal〉
 最初の電話は、早朝だった。明らかにパニック状態の若い女の声だ。何の電話だ、危険な状態なのか。当直医と話してください、とにかく来てください。危篤の召集なのか、はっきりしろ! 女の声は、ドクターに聞いてくださいで終始する。病院はリスク回避のために即答を避けているのだ。ドクターが電話に出ることもなかった。
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