襞おとし (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)

  ――大岡信氏に

旋毛風のなか
子午線をわけて
血の道筋が
雪原に現われる
蔽い被さるような
繊い樹木の枝から
行手を視る 雪玉が
吊られてある いや
たてがみのない裸の首

凍りつくようなその河は
ゆるやかな棘の歌とともに
あおあおと青白く
遺跡を経めぐる

朝日のまばゆさに 燦々と
きらめく雪の平原に
血の河の暗黒が
サボテン状に
屹立する
舌もどきに巻き返し
男根の如く蛇族を叩き潰す
暗黒の河
邪悪な星群が
激しい直線を画いて
朝日の裏に消える

と 雪あらしが

防風林に
くくられた美貌の尻
なかばはみでた糞尿が
蜃気楼のような陰唇の
艶やかさをもつに至ると
空に繁殖する
ゆで卵の畑で
禿鷹の頭目が たかく
ひと啼きする
そのとき 涸れた風が
みるみるうちに
雪ともどもに
血の河を吹きぬけて
霧の広野を沈ませる