――大岡信氏に
旋毛風のなか
子午線をわけて
血の道筋が
雪原に現われる
蔽い被さるような
繊い樹木の枝から
行手を視る 雪玉が
吊られてある いや
たてがみのない裸の首
凍りつくようなその河は
ゆるやかな棘の歌とともに
あおあおと青白く
遺跡を経めぐる
朝日のまばゆさに 燦々と
きらめく雪の平原に
血の河の暗黒が
サボテン状に
屹立する
舌もどきに巻き返し
男根の如く蛇族を叩き潰す
暗黒の河
邪悪な星群が
激しい直線を画いて
朝日の裏に消える
と 雪あらしが
防風林に
くくられた美貌の尻
なかばはみでた糞尿が
蜃気楼のような陰唇の
艶やかさをもつに至ると
空に繁殖する
ゆで卵の畑で
禿鷹の頭目が たかく
ひと啼きする
そのとき 涸れた風が
みるみるうちに
雪ともどもに
血の河を吹きぬけて
霧の広野を沈ませる