魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

iii – 2

至高の秘儀ともいうべき王家の処刑は 既に枯死したボウの苑を囲む三つの恐怖の淵に設けられた冥王の座で執行される
エレーア
恋の初峰入り
我が生と死の賜物よ
紫焔に包まれた哀切
その苦悶よ
エルドレは虚ろなエレアの死の瞳を想起する
オルリー公は種々の拷問を加えられた後 第二の冥王の座で狂死する
第三の呪いの座に供されるはずのエルドレは 高僧たちに匿われ フネを駆って彼地を後にしたのだ
宇宙を支配する縄墨じょうぼくはその代償に聖地を第三の冥王の座に就かせるのである
あの赤く膿んだ星天の唯一の故郷は暗黒の斑ヘと変じている
篭目と称される不吉な唄を想起せよ
後門の狼と前門の虎とを併せもつ者は誰か
六芒星の北と南の中央に位置する恐怖の帝国
此地はエルドレに与えられた冥王の座なのだろうか
天円地方と唱えるに相応しい土地を見回すと 暗がりの中に十三個の金色の宝輪を戴いた十三階の塔がある
その周囲に五つの彫刻が見える
エルドレは四角い地面の中央を大壑たいがくが恢然として走っているのを知る
その底から 得体の知れない湯気とともに甘美な匂いが湧出してくる
頭脳を優しくねぶる性質の香り
エルドレは深い亀裂を覗き見る
尻尾の長いもの 短いもの 縮れているもの 千切れているもの
種を問わず 億千もの黄斑点をもたぬ近眼の生き物が 白い長大な門歯を研いでいる