魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

葡萄酒は臭みを消す
ビールは脂を流す
脂とよく馴染むのは老酒だ
仕度ができたら晩餐の鈴を鳴らせ
山椒と米粉を塗した蒸し豚に手をつけながら四方山話に花咲かせよう
鬱金うこんや姜黄で彩られた貝柱と野菜の炒めものはちょっと辛いので ぐいと盃を傾ける
殻付きの海老の煮込みに無闇に涎を垂らすな
麦芽糖を塗った家鴨の丸焼きが喰えなくなるぞ
シェフの腕を褒めたら色恋の奥義をも聞き出そう
木耳と鮑と筍のスープを啜り 誰か唄でも歌わぬか
踊りは早いがカードぐらいはもういいだろう
扁桃と百合根の菓子に茴香ういきょうや肉桂や砂仁さにんの峻烈な芳香が混り くらくらする
呂律が回らなくなったら奥歯を噛みしめる覚悟だけはしておけ
韮を微塵にしてよく絞った点心は生姜の入った酢醤油で食すべきである
ちょっと待て
蓋をしたまま茶を喫む男よ
まだ食い足りぬなら 台所に行って枸杞くこの若葉を入れた粥でもぶち込め
さっさと裾張蛇すそはりへびの変生でも抱いて 夜の沈静に溺れよう
鼠は固陋な大食漢である
新物件反応は彼らの舌を頭脳の上位に遇している
崖下の鼠どもはいかなる料理を喰っているのだろう
エルドレは彼らが喰いながら大量に脱糞し即座に交尾し出産する様を見る
凄じい葷羶くんせんと増殖と死よ
何という欲望の谷底
エルドレは胃の分泌液をすっかり迸らせると透明な貌を上げる
硝子細工のように清澄な肉体に蒼い光芒が生じている
エルドレは十三重のストウーパに近づく
塔の扉には上半身が浮彫で下半身が装飾画になった新生児が描かれている