魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

方格規矩鏡を持った女の束ねた黒髪を左手で鷲掴み 中太の大刀を振り翳した男
エルドレはとっさに二つに分離し 男と女の中に入り込む
閃光が走る
刀が月光に映える
鋼の像は生命を帯びているのだ
獰猛な男は惨酷な歓びに喜々としている
女の細首に刀が喰い込んだとき 女の咽喉を介して断末魔の叫びをあげる
だが その[外1■]忽しゅくこつの何という満喫
死とはこのように充実したものなのか
女は鏡に映る己れの耀く瞳を垣間見る
満月の妖艶な光がそそいでいる
数百の巨大な仏像の無表情な貌が微かに乱れたようだ
男は首なしの胴に太い腕を突き入れる
食道の緊縛がたまらない
さらに深く差し入れ臓物を一気に掴み出す
生温かい血の塊が食欲をそそる
眼球を硬い指で抉り出し 開いた穴に舌を深く這わせ 脳漿を存分に啜る
何という甘美でこくのある夢
このような芳醇な味がこの世にあろうとは
エルドレは酔い痴れる
窮して濫するとはこの事だ
玉の第一の徳とはその光が仁を表すことである
男は女への精一杯の思い遣りから 散乱した遺体を鼠どもの饗宴に投げ入れる
女の中に入ったエルドレは ばらばらになった肉片に従って己れが四散するときの特異な快感を知る
尻から雷鳴を発する小人たちは月上からこの光景を見ているに違いない
弔いのために嘴の曲がった鷺の群が花椒塩を撒いているのだから
エルドレは第二の像に侵入する
金縷玉匣を着せられた少年を空中にぶら下げる巨人の彫刻
巨人は少年に何ら落度がないのを心得ている