魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

清廉潔白な人間ほど手に負えぬものはない
巨人はまず細い指を毟る
少年の瓜実顔が南瓜のように歪むのを楽しみながら手首を捥ぎ取る
少年は失神するのを歯を食い縛ってこらえている
巨人は苦笑いすると 捥いだものを崖下の鼠どもに投げつける
少年の首筋を摘んで それがたちまちに喰われてゆく様を見せつける
少年は下等動物に喰われてゆく己れの肉片を必死に見続ける
頭脳と感覚を支える発条が弾けると 全身に鋭い痺れが走る
この痺れは 妙なるかな 不思議な戦慄を喚起し 煽情的だ
腕の付け根から足指に移り 太股ももうない
巨人は最後に首をひねると 絶命した胴体とともに崖に放り込む
生真面目にもほどがある 最期まで眼を開けていたと反芻し 大笑いする
巨人の中のエルドレは 一つ一つ千切るあの感触で 何やら心が洗われたような気持である
玉の第二の徳とは その透明度が廉直さを表すことである
蝋燭を銜えて天門を照らす人面蛇身の神ならば 瞠目の美少年を火の番人の列に加えるだろう
第三の彫鐫は 智力あふれる姫君を鈍重で卑しい下僕が鉄の棍棒で打擲するものである
卑屈な薄笑いを下唇に泛べた下僕は根気よく何度も鈍器で殴りつけ 躯中の骨という骨を砕き 姫君を軟体動物に化させる
蛸のようになりながらも 賢しい姫君は凛として威容を保ち 鞏固な意志でこの唾棄すべき低能を嘲っている
骨が砕ける解放感に馴致して せいぜい喜悦の微笑を泛べれば この糸瓜へちまの皮を見下したことになる
姫君はそう決心すると 骨の崩れゆく痛みがまるで恋人のように思えるのだ
下僕は既にぐちゃぐちゃになった姫君の躯を骨刀で縦に裂き 内容物を綺麗に掻き出す
姫君は今や一枚のひらひらした皮になる
蝋を万遍なく塗ると 外套のようにすっぽり装着する