魔の満月 iii – 2(至高の秘儀ともいうべき王家の……)【詩篇「魔の満月」最終回】

下僕は あの気高き智性はこの通りすっかり手に入ったと得意満面である
玉の第三の徳とは その玉の敲いた時に生ずる澄んだ音が智性を表すことである
エルドレは 己れが紙のように風に戦ぐ軽快さと 泥のような流動物になって味わう粘着性とに新鮮な興味を感じる
澱んだ空気と 満月の奇怪な吐息と 数百の巨大な視線を浴びて 第四の鋳物に入り込む
数人の囚人の陰茎を切り落とすナイフ使いの像に 今まで試みたことのない魂の分割法で侵入する
股間からどくどくと血と小便が噴き出している
エルドレは性器のない男というのを体験する
周囲が妖異で淫靡な微光で隈取られる
皇帝に叛いた猛々しいまでの反骨は雪崩のように溶解し ひたすら従順な気持が萌える
ナイフ使いに尻を振って取りなしを頼む
目尻の釣り上がった若い男は煩わし気に取り合わず 男たちの陰茎を鞣している
ナイフ捌き一つで勇士たちさえ御せるのだと北叟笑む
囚人たちは若い男の手伝いをしようと 股間の出血をも意に介さず 己れの男根を鞣し始める
若者の逸物をまさぐって媚まで売る始末だ
ナイフ使いはよく鞣された皮を繋ぐと これこそ勇気凛々たる鞭と有頂天になる
空を切る鋭い音
数百の巨像の唇が仄赤い
しゅるっというただの一鞭で 哀れな腑抜けどもを谷底へ叩き落としてしまうのだ
玉の第四の徳とは その玉の曲げることのできぬ硬さが勇気を表すことである
エルドレは性器のない女の場合はどうなるのだろうと烹煉ほうれんを加える
踊りの最中にハイヒールの踵が外れ 女は酒宴のテーブルに倒れ込む
深く交わると深山のような躯に中る
年寄と子供に気を遣うな