唄のずれてゆく爪跡の
柔らかな道端に暮れて
いまだ 日輪の翳ることばうら
そのうちに 精液をきらばめて
男色の刷毛が剥がれてゆく
暖気流にのって
咲き出してゆく蟲をこぼして
語の用紙を潤す
唆巡なんか むせた乳首の
硬い繊維に 腹くだし
黄金の固塊のどろどろした
水先に身を寄せて もう
帰っているのだ
家は 奇妙な野菜を飼っていて
朝のかすかな光とともに
酸い腐臭を漂わせている
背中の肉を盛り上げて そこから
醸成されるアルコールを
街の澱みに流している そこは
切支丹の教会堂で 赤い柱が
照り抜けて 異国の
空に郷愁をふりかけようとしているが
すでに うすく貼りついた氷の膜に
遮断されている 朝は
家を貫いて もう睡りこんでいる
(初出 『現代詩手帖』1973年6月号)