春の街だよ (実験詩集「浣腸遊び」, 1974)


黄土色の塔の時間割り
なぜ広場は波際の痛点に
沈められたまま帰らぬのか
リトマス紙の苦い反照
なぜ山頂の濡れた展望台は
河山近くから寄せる空腹を嗅ぐのか
   転げる
転げる   凝結の羅針盤を
   映す幻の童顔
   春だよ
春だよ   アメジストの犬啼岬
      蒼天の沐浴の湖
   屹立の魚
   泡 砂あらし
   シナモンの喉ぼとけ
   縞ばしら 日の埋め土 指繰り
  磁気あらし
  逆流する滑石の
  畑に潤う旋極の破裂音
  舐るように胡瓜を摘んでゆくと
 溶岩の噴出する海底住居を
 焦し出して海藻の赤い舌で
 言葉の球体を片目に貼りつけ
白い尖光
宇宙の石炭袋の支える
星の囚人列車の跡なく
重い矮星の 撞きばめられる
恐怖の戦慄を からめとる
おお 春の街だよ 夜の涯
閉じ眼を剥いで
下垂体まで貫いて
再び死体のふりして
不可知論を唱えてみる