未刊行詩集『strandにおける魔の……』07: 棘という神話

隣と呼べないような隣の部屋という鏡の迷路。相似形の空洞はまばゆく、壊れかけた扉があるばかりで、窓ひとつとてない。上下左右前後方の扉が無限に続き、手をかければそれらの扉のすべてが開く。そして、その向うには、またしても青銅の装飾のあるいかめしい扉。十一枚目の扉から先は触れることは不可能だ。そのうちに、過去をふり返る懐かしげな不安、危険、鎖された息苦しさ、ああ、鏡の迷路の数億の扉が心臓のごとく収縮を始める。所有と光、その光源、流れ始める渦。規則正しい動悸。密室。開かれた密室。臆病な蟹が迷い込み、息をひそめて這いずり回る。ここが機関室を制御しているとするなら、船内のあらゆる細部と中枢が入り混じり、そのたびにある種の疼きにとらわれよう。

簡素な館の簡素な地下室。自家発電機の唸り。重たい回転音の中から、わずかに聞き取れるホイッスルの叫び。咽喉ぼとけの部屋。水平に伸ばされた長い腕。医者のいない手術室には、数体の毛むくじゃらの胎児がぶら下がる。看護婦が、犬歯と爪で静脈の透明な皮膜を選別している。ガラスの破片のようにふぞろいに結晶している血液。棘々しい血の粒。室内そのものに溶け入る排泄物。おお、呼び寄せられた次なる言葉たち。延長、紐、白衣に穿たれた月経の穴、尻、これらの溶解する夜を生まれたばかりの胎児の管に注ぐ。

船の内部の船であることを記す家屋。故障の続発。鼻だ。空間の亀裂。甲板を三分の二ほど平らげる獅子のたてがみ。龍巻に裂かれる帆。葬儀に供される花輪。暦が狂いだしている。そう、ここが機関室だ。それゆえ、ここの六つの壁は透明な液体である。だが、見うべきは、首のない鮫の群。この部屋に封じ込められたサザン・クロスの星屑。そして、細い、巨大な眼。

食堂という繊維。両端が閉じられている怒号。壁という隙間、その洪水よ。円テーブルの中心の寂しさ。雑多な料理と議論とトマト・ソース。どろりとした純金の燭台。何代にもわたる、住人という影。そのアラベスクを賞味せよ。やわらかな食堂自らが、館の中を自由自在に滑りまくっている。