未刊行詩集『空中の書』24: 岸辺

岸辺

忘却のアシは
切岸から突き出ている
聖なる声音をまねて
亡霊の名を呼ぶ
十数億年の生涯を
一箇の砂粒に封じ
齢老いた光
遺されたルーン文字

フネが辷る
月光と影のささやき
青い裸身よ
風にふれる乳房
するどい腰
尻の蠱惑的な曲線カーヴ
ふかい溪間よ

母なる物質の彼方
ふたたび想い出せぬ
その名

処女の血のこわれる
ふるいふるい戦い
娘らの命で織り上げた布が
若者の蒼い髪を束ねていた
黄金の死の顔に
すでに名前はない

(……へその緒)
亡霊のかたちは
泡の自在な殻に呑まれ
十億の浜辺
百億の水底