桜 佐藤裕子
赤茶けた泥濘を突き生えて来る椅子には叔母が掛けていた
駄目その本はシャルル・ボードレールはいけないわ
灯りも点けない屋根裏の欧羅巴の夕闇に姿を置く香水石鹸
何が悪いのか知らないまま詩集は何冊も泥に沈んだ
黴だらけトランクの鍵を壊して遺品を手渡したのも同じ掌
箪笥の木はコンクリートを割り伸びる恥じらいの背
早口の唱え言願い事食堂の梁に吊ったブランコを追う碧眼
青いもの古いもの新しいもの幸福な人から借りた品
溜息を零す音もなく長椅子に叔母が座っている灯明の仏間
寒い季節船便で届いたヴェールを脱ぎ切り抜く桜花
七つの海を航海中暇に任せた娘達が巧を競い織り込んだ柄
あと二十だけ時間まで迎えが来たら待たせておくわ
花嫁衣裳の裾から膝へ嵩を増す砂胸まで顎まで呑み込む砂
長手袋を嵌めても細い指が白砂を仕舞い掻き消えた
満開の桜で祝う為空部屋の障子に幾つも幾つも穴を開けた
駄目その本はシャルル・ボードレールはいけないわ
灯りも点けない屋根裏の欧羅巴の夕闇に姿を置く香水石鹸
何が悪いのか知らないまま詩集は何冊も泥に沈んだ
黴だらけトランクの鍵を壊して遺品を手渡したのも同じ掌
箪笥の木はコンクリートを割り伸びる恥じらいの背
早口の唱え言願い事食堂の梁に吊ったブランコを追う碧眼
青いもの古いもの新しいもの幸福な人から借りた品
溜息を零す音もなく長椅子に叔母が座っている灯明の仏間
寒い季節船便で届いたヴェールを脱ぎ切り抜く桜花
七つの海を航海中暇に任せた娘達が巧を競い織り込んだ柄
あと二十だけ時間まで迎えが来たら待たせておくわ
花嫁衣裳の裾から膝へ嵩を増す砂胸まで顎まで呑み込む砂
長手袋を嵌めても細い指が白砂を仕舞い掻き消えた
満開の桜で祝う為空部屋の障子に幾つも幾つも穴を開けた
(2017.3.25)