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中空でふんぞり返っている邪悪なるものの舌に白い裸身を翻弄させながら エルドレはあの美しき囮の彼方から不吉な砂煙が攻め込んでこようとしているのに気がつく
すでに死の呪いのうちに還りついているがらんどうの建造物は腐蝕と退廃に供され まさにあたりの砂とともに崩れ落ち同化しようとしている
エルドレに施された夢はいったいどのような材質なのであろう
エルドレは勇士の彫像から錆びついた鎧を剥ぎ取ると 徐々に紅を帯びているしなやかな肌に素早く装着する
身にまとうこの二重の衣はあってはならぬものへの断乎たる拒絶の姿勢である
生命の
この眼が映し出しているのは己れなのであろうかと嘆じると 炎がひと揺れするたびに二人さらにひと揺れすると四人というように鼠算式にエルドレの影が増えつづけ その数が四千九十六人に達すると次の十一回目の揺らめきで三百二十四人が加わり 十二回目の揺れでは四百六十八人が独自に炎の尖端から現れ 総勢四千八百八十八人の武士が十三回目の最も大きな揺らめきでエルドレの前に武装して登場する
精根を使い尽くして神の火は千数百年の寿命を全うする
第十回目までに登場した軍勢に十一回目の軍が加わり それらは二千二十四人と二千三百六十九人の軍団とに再編され 十二回目に生まれた残りの兵は二百二十人と二百四十八人の部隊とに分かれる
最も大規模な二つの軍団は槍と
ああ絶体絶命のこの窮地
混乱と激しい恐怖という明白な予見
ひらき直りとやけくその専制支配
強いられることから生まれる力よ
おお危機の深いクレヴァスの底から得体の知れぬ自信が湧いてくる
余裕をもった眼で屈強の軍勢を観察すると 兵士のどの顔も同じ眼つき一様の表情をしていて 彼らの造作がまったく単一の法則によってなされているのを知ると親しみさえも感じるのだ