魔の満月 ii – 2(エルドレは周囲を見回して……)

風邪をこじらせ再び電話魔が出没する
白粉で生活を塗たくる
鮟鱇の生肝を賞味するたびに失恋の涙を零す
泣虫が片眼のジャックを捲りワイヤードを示すと小切手が乱れ飛ぶ
街路で器用に脚をあげ跳躍しながら頭上で腕を交叉させると嫉妬深い女から解放される
脹れっ面のモノマニアが哲学者は死んだと叫ぶ
栓抜きで盲腸を手術すると死者は死につつある者として蘇る
墓は空っぽだ
さあ婆やよ 寝台を暖めなくては
弟を伴い母親の寝室に忍び寄るエレクトラよ
おまえはもともと何処から来たのだ
薔薇色と灰色の絵によって要約せよ
ヴェスタ神殿の前にある斜面になった公園を抜けて道化たちの弾いた白球が転がる
街はぎらぎら輝く太陽の下に果てしなく続く紙片に変わり 人々は蟻のように右往左往し 自動車はあらゆる方向にぐるぐる回り 遥か彼方ではベルが鳴り響く
期待は期待する
人体に由来する原初的物質の臭気が全会葬者をすっぽり包む
午前一時が鳴る
やがて列車は出発する
小肥りの大道具係が空中ブランコに跨る
おまえは何処から来たのか
船倉で催された黒彌撒は青年を破滅に導く
縮れ毛を掻き上げると扁平で青白い耳朶が現れ女給たちの失笑の的になる
牧人の提瓶に因むデパス・アンフィキュペロンは三半規管を内蔵した歴史の挺子てこであろうか
崖から身を投げると半索動物の巨大な糞が迎える
生ある化石三味線貝の触手がもつれ汚染された鎮守府の夜は長い
聖ヨハネを佚つまでもなく死者たちは死につつある者として蘇る
白鳥を抱くレーダーの産む卵こそ彼らを庇護する船霊である