魔の満月 ii – 3(天幕を裁断する玲瓏な光が……)

怒鳴りつけると白眼を剥いて抜衣紋だ
ドアをばたんと閉めると もはや生命の片鱗すらも残っていない
机上の髑髏に接吻すると 惑星間の真の虚空を横切ることさえ可能である
進捗すべき詩藻に足を取られて諛言を呈するなど秒忽なことだ
洗濯女の狂った瞳孔を覗いて母親の背に隠れる
さし乳の女が乳石を献上すると取るに足らない痩削な老婆になる
殴りつけると半身瘡蓋を貰い翌日の水浴びは苦痛だ
雑草の生い茂るスタディオンで涸いた野犬の糞を蹴る
踊るつもりなら肉の毒素を取り除かなくては
釣るしんぼうを着て酒瓶片手に散歩しよう 満月の下で女に平手打ちを喰らうから
ヒステリックな罵声と一緒に突き出される包丁
おお海に臨めるオベリスク
階段の左右に大理石で彫られたAからZまでの巨大な文字
赤条々の艶聞なんか口づけに清涼水を含ませてさよならだ
沛然たる迅雨に打たれ乾坤は健全なアムブロシアを育む
リンネルの縁なし帽を冠るほっそりした美女と 濃紺の肌に吸いつく薄絹を着た美男子の和合する水の都 あの太陽と親しい叡智の王国は何処に匿されているのだろう
未練たらしい詮索など法界悋気である
審美的な考古学者が氷柱を抱くとすぐさま融けだし その流れを這い上がる蟇にひんむかれ悲惨な最期が訪れる
魁然として死の十全の保証を受けよ
おお国家の盥は足で一杯だ
黒い岩礁のように連なる海岸から突き出た岬の下に到達する
葡萄色のなだらかな海原に囲繞された美しく豊沃な島
九十の諸都市と最古の海軍の眠る土地よ
入江を中心に放射状に拡がる最大の町に至るには 獅子の彫刻が守護する城門を潜らねばならない
エルドレは皎々と燦く太陽と乾燥し透明な青空を眺めながら濡れた躯を休めると 屹立する岩山に挟まれ屈曲した渓谷へと向う
鬱蒼と生い茂る樹々がたわわな枝をしな垂れて行手を阻む場所を通り抜け 赤褐色の岩肌の迫りくる狭隘な道が途切れると ぽっかり目の中に低いなだらかな丘が薄墨色の重なり合う建物の影を載せて飛び込んでくる