突然 浅間山の頂点に大きな日没がくる
なにものかが森をつくり
谷の口をおしひろげ
寒冷な空気をひき裂く
田村隆一「見えない木」より
なにものかが森をつくり
谷の口をおしひろげ
寒冷な空気をひき裂く
田村隆一「見えない木」より
I
冬枯れ
濡れそぼる眼の窪みに
妖しく 瞠く
――おれは、畢竟、単独のエロス。
鼓膜を枝枝に吊り 月の孔に
葺かれる しとど
垂れる林道のふるい雨
森の水晶体・ひかり苔に拡がる 黄色い
呼気 潮の
撞き声に枯れる雪
――分光器から覗くと、枠寄せる火の繊維が括られ……。
弓なりの意志の一輪ざし
放物線のしぶく 波の
死
反動する波間にひき裂く 轟音
どこからの
浮游魂の毛一筋――
真向いからの夕餉
仄立つ白魚の活け
のぼり夢の切れ目
暮れかけの灰色の孤島へ
星を渉る樹林を
冠れよ――もう停まらぬのだよ
緋傘に
貼りつむ指の透明 うす髪の
淫らな絡め その