(こわれゆくもののかたちシリーズ) 銀色の蝶

 銀色の羽にきいろい液をはきだし。蝶はすでに死んでしまって。
 死体からりんぷんをそぎおとすと、そこだけが紫色にみえ。わたしはしかばねと化した蝶を沼のうえにほうりなげ。
 くるくるとふきそくに回転しながら。落下した蝶がでいどのまじった水にうかぶ。ぎんいろのりんぷんがとけだして鮮紅色の液体になるような。
 それから。どろみずのなかにこまかい泡がうまれ、水音をたててひまつが。
 波紋がおさまると、ぬまのうえの蝶のすがたはあとかたもなく。
 わたしはにごった水のおくに、あぶらっこくひかる鱗をみたはずだが。
 きみょうなしょくぶつはくろずんだ赤い葉がとれて。うらがえしてもみたが。蝶のようにふたつにおりたたんで。沼にほうりなげ。葉は蝶のきえたあたりにうかんだまま。太陽のひかりを反射して。
 死体のゆびのような突起は、気味が悪くて。さわる気には。

 北国のなつとはいえ。午後もさかりになるとあつくなって。わたしははだしになり、ぬまの水にあしをつっこむ。べとりとしたかんしょくなのだが、つめたさがいくぶん気にいり。
 水をいきおいよくけりあげる。かっしょくの泥水がまっしろなひまつにかわり。みずしぶきが頭上の太陽にたっして落下。
 そらになないろのおびがただよって。あたまからずぶぬれに。
 わたしはめんどうになって。シャツと半ズボンをぬぎすて。水の中に肩までつかり、いぬかきを。
 ぬまはむこうがわまで十五、六メートルほどなのでなんなく往復できるのだが。
 しかし。数メートルもいかないうちに、あわててひきかえすことに。
 沼に浮かんだみずくさのかげで。なまりいろの光沢をおびたふながはらをうえにむけて死んでいるのを。