銀色の蝶
しろい捕虫網とむしかごをもって、裏山の中腹にさしかかり。わたしはたちどまり、下界をみおろして。
すみをはいたくろい川がみなもをきらめかせてながれ。
やまみちからはゆるやかに蛇行する川にそってつづく、うずら町の南北にながいすがたが。
つみだし炭を満載した貨車が何十輛とつながり。牽引する機関車がもうもうとけむりをたなびかせ。家々のむこうからおいすがる、のどかな正午のサイレン。
やまのうらがわに回り込むと。石切り場の跡が。わきに湧水がたまった小さな沼が。
ここで銀色の蝶を見たといううわさが。
銀色の鱗粉をもつ新種の蝶なのか。ひかりのかげんでみえるだけなのか。わたしには知ることなど。
ぬまの向こうに広がる松林、したばえにはまだらもようの隈笹がみっせいして。ぬまの反対にまわりこもうとしたとき、ほとりに根を落とした木蔭にきみょうなものが突き出て。
あおみがかったしろいほそながい穂が。
根元は黒ずんだ赤い葉でつつまれ。落葉に寄生するきのこの一種だろうかとも。
死人のゆびに見えて、ぶきみな。