数億年を経た黴臭い澱んだ空気が体内を侵してくる。なつかしい死者たちの塩が、脊索動物ゲノムの歴史が、部屋に、体内に充ちている。名づけうべくもない戦慄、その兆し。
闇の本体と化した髑髏は、全ての暗黒を呼び寄せる動きを終熄させたように見えた。そして、その暗黒自体がまるで光の性質をもつもののように、漆黒の闇を黒々と燦かせた。次の瞬間、髑髏は周りの何もかをも根底から破壊するような凄じい速度で部屋の中を疾った。その行手には光を遮るカーテンと窓がある。遮断するあらゆるものが吹き飛び、大きな爆発音とともに粉々になるさまが予感された。そして、粉砕時の轟音が耳に達したかのような錯覚に囚われる。
しかし、髑髏は窓に衝突すると同時に、まるで吸い取られるような具合に、音をたてることもなく、忽然と姿を消したのだった。
全面加筆訂正(2011.12.23)