連載【第026回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: fluctuating fabric 1

 fluctuating fabric 1
 それは、空虚という実体を内包したものなのかしら? 意識が物質過程に関与するということは、そのような見方が必要なのではないか、そしてそれはすでにそれ自体がエネルギーでなければならないとも考えられるわ。
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連載【第024回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: narrative of revenant 2

 narrative of revenant 2
 どれほどの長い時間が経過していたのだろう。ほんとうはわずか寸秒のことだったのかもしれない。浮游する顔は初めから色彩を失っていたが、首だけになると、褪色した薄い皮膚はみるみる涸び、ついにはかさかさになって剥落していくのである。鼻梁や耳朶もその形を崩し、軟骨がこぼれ落ちる砂のようにさらさら音をたてて空中に四散していく。ただひとつその姿をとどめているのは、剥き出しになった裸の眼球である。網目状の毛細血管に絡みつかれ、燠火や鬼火を思わせる血の塊となって膨んでは萎む眼球が、闇の中で妖しく炯っていた。
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連載【第022回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: missing acts 2

 missing acts 2
 その部分は遊離しているのではなく、無知であるために包括的に独立しているのかもしれない。それは知的な認識という回路を必要とせずに、たんに気づかないでいるというだけ。気づかないふりをしているということとは違うのだが。あるいは純然として気づかないということ。だから、君が誰で、そのときどこにいたのかと問うたところで、その質問ははぐらかされ、ただ吸引されて、反問されることはない。無視されているのではなく、空っぽの向こうに吸収されつづけていくのである。
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連載【第021回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: missing acts 1

 missing acts
 必要なのは破裂することばなのだ。地核での眠りから地表に上り、地面を伝って中足骨からいくつもの関節を跳び越え、脊椎から頚椎、頭骨へ、さらに骨格にまとわりつくあまたの血管を辿り、太い大動脈を引き裂いて、脳漿を膨れ上がらせ、ついにすべてを粉々にして、破裂すること。寝静まって、だれにも見つけられない真夜中のいたるところで、一瞬の、激しいひきつりが発現する。それらを起点にしていくつもの痙攣が波動となって打ち続き、その長い長い苦痛こそがことばのprimary tumor。粉砕された輝く無数の細胞の切片を巻き込み、熱く滾る血液、脳みそ、肉片の飛び散る渦、気化する状態のタイフーン。なによりも切実な痛みの群体! 続きを読む

連載【第020回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: all gravity 2

 all gravity 2
 皮膜は確かにあるのだ。BにおいてB´は隔てられたものだ。重力と磁力が溶融しているような状態ではすべてが見えなくなってしまうように、皮膜のあちらとこちらの磁場がそれぞれに高温にさらされているのかもしれない。その安定しない状態にあることで、あらゆる事象との結合が容易になっているのだ――あるいは散乱現象。Bにとっては皮膜が熱によって混濁すればするほど、内部に押し込められることからいっそう離れた場所にいることになるのだから。
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連載【第019回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: all gravity 1

 all gravity 1
 皮膜などはたしてあるのか。BはB´に対して方向性を持っていると仮定すべきだ。なぜならBとB´には互いに異なった磁力が存在しているからだ。BとB´の引力と斥力の混沌は極大に達しているかもしれない。そうだとすると、それは何に起因しているのか。
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連載【第018回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: blood wedding 2

 blood wedding 2
――まさに〈私〉が息を終えようとしているその刹那に、〈私〉を唆して飛び立たせようとするものがいるのだ。〈私〉は羽撃くものではないし、翼、鰭、跳躍に適う強い脚をもつものでもない。天使のように無残な光輪も、醜く硬直した幼児的な微笑も持たない。ただ、たしかに深い憎悪と鋭い敵意を抱きながら囚われつづけている、まさにその接触面にいるのである。〈私〉を解放しようするものが現れたとしても、〈私〉はその欺瞞と悪意を見破り、何ものに対しても完全な侮蔑と敵意を失うことはないだろう。〈私〉はあなたに対してさえも、またこうした自分自身の重複せざるをえない意識の連鎖に対してさえも、〈私〉を囚えているものに対する反抗と同質の〈反抗への意志〉を欠かすことはないだろう。
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連載【第017回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: blood wedding 1

 blood wedding 1
 地面を引きずって徘徊するその意識は、決して地面に引きずられてはいないのだと叫ぶ。だが、天井からは継母の祝福されざる黒い血が滴り、屋根裏部屋の床一面には重力の破産を示す熔解した天体の落下の痕跡が見られる。痕跡は鉱物の形をとるのか、植物の姿となるのか、あるいは生々しい肉そのもの……。すでにこの世を後にした意識は、物質と物質との関係は、意識と物質、意識と意識の関係でもあるのだと言い残していた。その意識が向かったのは、向こうから押し寄せてくるものがとうてい看過することのできない反撥と激突とでもいうべき鋭い亀裂。
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