連載【第036回】: 散文詩による小説: Dance Obscura: sleepless forest 2
sleepless forest 2
取りつかれた細胞の戦闘は、無尽蔵の死体を作っていくのではなく、相手の細胞膜から攻撃物質を侵入させ、核にある標的物質を変化させて、それを基点に相手を解体し、さらに細胞膜の外に漏出させ、血流やリンパ管の中に昇華させるのである。 続きを読む
sleepless forest 2
取りつかれた細胞の戦闘は、無尽蔵の死体を作っていくのではなく、相手の細胞膜から攻撃物質を侵入させ、核にある標的物質を変化させて、それを基点に相手を解体し、さらに細胞膜の外に漏出させ、血流やリンパ管の中に昇華させるのである。 続きを読む
sleepless forest 1 その森に迷い込んだときに、ある種の体系に毒された執拗な夢が送られてきた。それは、攻撃といってもいいかもしれない。その夢は、たしかに脳髄と神経システムの根幹を支配するDNA生命体がつくりだしたものである。 続きを読む
spinning sea 2
――うわーっ、なんだ、痛いじゃないのぉ。だれか助けて! 嘘ね、医者はうそつき、目が回るくらい痛いのよ。萎んだ体が力なく緩んで、頼りなく覚醒を訴えてつづけているのに。
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spinning sea 1
わたしがその兆候に気づいたのは、東南アジアの古い都市の旅から帰り着いてすぐのことだった。眠りから目覚めると、後頭部に何かしらの違和感を感じたのだ。簡単な打撲だと思ったのだけれど、嫌な気がしたのも確かだった。内部に向かった棘、触るとぐにゃりとしていて。
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bourbon cask
――わたしは何について考えたらいいのかしら。何かを愛しているという錯覚、それとも憎しみについての物語? つまり、肉体の猥雑さをいとおしむべきなのか、身体機構のヒエラルキーに反抗すべきなのかしら。それとも、わたしはわたしから見ることのできないからだの外側の世界、からだがいくつも重なっている世界を愛しているのかしら、許せないでいるのかしら。無限に重なりつづける宇宙のからだ、わたしの性器が受け入れられないもの。
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fascism without the summit
つまり、システムレベルではこの内部にある限り自己なのである。所有を知らない単純集団は細胞の組織構成と同一の結合関係を持つといえる。所有は共有であって、私有の概念はない。いや、所有の概念がないともいいうる。集団的。あるいは階層的。または幻想的統合システム。
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light cage
それにしても、クオリアは身体の全体的な認識領域なのだろうか。それも、単一の。それこそ、質の異なった、サイズの違った、別の領域を複数個持つと考えられないだろうか。そして、それぞれの世界の関係は矛盾に充ちたものであると。
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grillo 2
ここでは意識は物質であるのか、そうでないのかを考えているのだが、物質であることと物質でないことにどのような境界をもたせられるのだろう。境界がないか、あまりに詳細化されて境界というには困難な状態であるならば、それは物質とはいえない力学、つまり量子的な光子間におけるある種の重力場といえるのかもしれない。境界自体が空間状態であるとか、境界自体が重力状態であるというような問題である。
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grillo 1
嬰児はすでに幼児となって、ひとつの形を表しているのかもしれない。そのグリロという名の器具は光の線分をまとめて冠状波紋を撥ね上げ、その尖端を結びつける糊のように粘着的な接合を不規則に続けていく。それらの接合箇所はとげとげしい光を帯び、ギザギザの閃輝暗点のカーブをつくり、幼児をその奥に囲い込んでいる。光はグリロの筆先になっているのだ。幼児は井戸の中の意識の鏡体とでもいいえよう。閃輝暗点を生み出した脳内中枢の血管の瞬間的な収縮が、血流を一時的に変化させる。そのときに意識の鏡体となり、絶対反射の球面となるのだ。
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fluctuating fabric 2
嬰児というのが妥当かどうかはわからないけれど、声の主が操っていた塊は形の定まらない筆記具とでもいったもので、始まりは回転体であるけれど、振り子のように円錐状に振り続けると、中心部からさまざまの色光が長い線分となって発するというものだった。そして、その糸状の光つまり網の目は時間と空間と重力のそれぞれの発生点らしく、それらの交点からさらにけばだったゼンマイのようなヒモ空間をゆらゆらとのばしていくように見えた。
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