雑体:00300 : 自由なるかなはるかなり

 
 
 
去りがたし 忘れがたし 寒雨あり
 
さりながら心にかかりて雨匂ふ
 
夢の中にゐたをんなのちぢむちぢむ
 
 
 
てふてふの一頭もとらへられぬ世紀末
 
 
 
童顔の心残りの夜は更けて
 
のこされた童顔 横たはることば
  詩集「童顔」の詩人、故山口哲夫を偲びて
 
 
 

 この数日は車も使えず、新宿二丁目にも繰り出せず、どうにも困った世の中であります。
 以前、御苑前である呑屋を経営していた友人が、大韓航空機に乗っていて撃墜されました。スパイ活動の結果でありますが、賠償金は家族にまだ支払われておりません。
 すでに人手に渡った彼の店は彼と友人たちの手作りの内装で、思いのたけがこめられたものでありました。
 幼い二人の娘の成長を目の当たりにすることも出来ず、彼はまさに亡霊となって、凍った北の海から、この懐かしい新宿にときどきはさまよい出てきているに違いありません。
 彼の元の店の前にたち現われる、ものものしい国家というものの傲岸な姿を見て、この悲しい亡霊はどのような恨みの涙をこぼすのでしょうか。

 
星さへも屍にかける声もなく
 
星もなく水底の氷こそ友の骨
 
浮かぶことなき氷といふ不可能の反国家かな