雑体:00300 : 自由なるかなはるかなり

 
 
 
偽悪者の盃の中の沈黙
 
歩きぬれば薄暮の海あり跼んだ林
 
茅ヶ崎の水際にありし寮に嫗遺れり
 
 
 
とくとくと音がするとくとくと
 
薄縁の陶器に濡れる刃尖 その酩酊
 
花の中にある残酷な色
 
 
 
春霞 魔性の棲める枝の重さよ
 
花に濡れて沁みとほる夜に狂ふものあり
 
 
 
雨上がり ガスの篭りをる砂の残骸
 
烟霧霽れたりし小公園のベンチに花の跡
 
子供の造れるトンネルは雨に崩され
 
花曇りとはいへあまりに哀しき春の午後
 
濡れた道をゆかば夢の夢に囚はるゝなり