偽悪者の盃の中の沈黙
歩きぬれば薄暮の海あり跼んだ林
茅ヶ崎の水際にありし寮に嫗遺れり
とくとくと音がするとくとくと
薄縁の陶器に濡れる刃尖 その酩酊
花の中にある残酷な色
春霞 魔性の棲める枝の重さよ
花に濡れて沁みとほる夜に狂ふものあり
雨上がり ガスの篭りをる砂の残骸
烟霧霽れたりし小公園のベンチに花の跡
子供の造れるトンネルは雨に崩され
花曇りとはいへあまりに哀しき春の午後
濡れた道をゆかば夢の夢に囚はるゝなり