なにげない朝ばかり。希望も、欲望も、消化され排泄されている。
髪の毛には、毒虫が貼りつき、生き生きと冷たい笑い。
肥沃な、反吐。相続税。分与金。未払いの歴史が小言をこぼす。都市を織りなす田舎。海洋を支える、屑。
軽快な霜柱の長蛇が映しだす、鏡の匙。敏捷な哲学者の裁判。その頃、遠隔地では出航の儀式が了っている。
粉々に男根が砕けている。
曲線の、日に焼ける飢え。
大股びらきの館には、リズミカルな出没の儀がある。
火の向こうには、教唆が。およそ困惑しきった表情の膿がしただりおちる。放牧地の乾燥した囲いのうちに、何万の腐蝕。
薄暗いいくつもの卵。発酵。閉じ込もり。意気揚々と退出する、死語。女がまずまっ先に殺害されることになる。
骨を包み込んだその殻が流れ始める。
一把みの夜が、濃い。
朝が、始まる。
朝が抜け出してくる、朝ばかりの朝。
睡りばかりの畑、不眠症の都市、黄金海岸。押しやられる年輪は、ついに一条の螺旋でしかない。
夜は波。市場。魚貝類の毛細管が、ぷつぷつとあらゆる箇所で破れてゆく。光の混濁する中性的な裸像が汚される。
駈ける。ゆっくりと。早朝、早晩。時間違いのあわただしい階段。
登山者の額にある、いくつもの呑気さ。
潜める。麻薬の燃焼。残渣。いきどおり。頂上感はみくびられているか。昂ぶる感傷はよく街区を彷徨してはいるか。
すでに、沈まっている、ついに一箇の頭脳! 右を開けば青い屍、左を開けば赤い熱病、両眼の交叉するところにうっすら拡がる、黄色人種の大陸が。
蝙蝠の地帯。海底から蓄積される、記憶の渦、言い回しの漂流物。
樹木をびっしり這い上がる地虫のうねり。
逆さ吊り。壁に、数奇の運命を辿った老婆が埋められている。聖女。占いの玉にまとわりつく科学性が、食指を動かす。
重層の海。不能の地球。未処理の法則性。たとえ話に鬼婆々のことがあげられると、必死になって気圏を呑み込もうとする。
紙・布の束ねた建物の上に、ふんわり蔽い、眼の塔は傾いだままこぼれおちる。