魔の満月 i – 1(岩窟に刻まれた扉は……)

地面がぐらぐら揺れ その裂目からは熱湯とともに激しい勢いで蒸気が吐かれている
侵蝕はさらに劇しく 執拗に次なる獲物を待ち設けている
エルドレは穴の中に潜り込むと真っ直ぐに岩を正視する
あのぴかぴかの箇所が正面に輝いている
何という冬眠
何という冷徹で静寂な磁力なのか
またそれゆえに澄明で永劫の底なしの智の泉と見紛うほどの透明な光が充ちあふれているのだろう
灼熱に燃え上がり いま巨大な火の星辰に膨れようとしているこの天球の裏面にナルシスの豊かな泉があふれている
その清幽の底から 驚きを顔中にあふれ出させたあの愛しきエレアが現れる
おお この驚きと驚きの 身をも引き千切る歓びと歓びの そして耐え難き悲しみと悲しみの相乗作用が一瞬のうちに生じたときに 扉の謎は明るみに出され エルドレは胸の裂目に封じられ その空洞へと羽撃いてゆくのである
聖地ラドルは塩水湖であろうか
諸々の族(うから)がアメリカーリアの長い脚と丈夫な爪をもつ
海豹は悖徳の第一印象であり紫羅欄花(あらせいとう)や金蓮花の密生するゴム製保護具の波(なみ)繁吹(しぶき)を冠る
眼がまず入口である
光は栗毛色から青色への跳躍 さらにオレンジの地中海的綜合へと結ばれる
海棲類の絶大なる栄光の輪に承諾された媾い
もしくは謀り事のとめどない満潮
言葉を仮りたメロディはいつしか波々を病ませ 水底の爽やかな藻や憎しみを封入した貝たちの上に妖しき緞帳を垂してゆく
そこにはアルバの粘土製模型やテルメズの彩釉陶器や また鉛の容器に載せられた甜瓜(まくわうり)が華やかに密封されている
紙上の運命と題する三面記事には警戒厳重な鉄道を二人の嬰児が転覆させたと誌されている
聖地ラドルの王であるオルリー公は長い白髪を背に垂し黄金のこれも長い鬚を逆立て 珍華な宝石をあしらった儀礼用サーベルを天に掲げて湿潤期の生命を祝(ことほ)いでいる