(こわれゆくもののかたちシリーズ)しもばしら

 つめの先からそりかえって。
 ほそめていた目がみひらかれ、眼球がふくれあがり。白目がまっかに充血して。
 えたいのしれないうめきが、わたしののどもとをはしったように。
 たちすくんで。
 すきまなくふりつづくあつい雪のかべ。そのむこうにひろがる、やみのそこから。禁断のあかい火がゆらゆらと。
 雪のかなたにうもれた一点のほのお。夜の底でかげりをおびて燃えさかろうとするほむらを。うっとりとみつめて。

 おおみそかの雪ふりの晩に、うずら町を大火がみまい。選炭場の事故がげんいんでガスばくはつが。その火がつみだしをまつ貯蔵炭の山をつぎつぎと襲い。一夜にして一帯の工場群が灰燼に帰し。
 もえあがった炎はふぶきのなかをうずをまいてたちのぼり。雪をのみこみ。町の空ぜんたいをあかあかとそめあげ。
 ふりやまぬ雪が、よこなぐりにふきすさぶ風が、いきおいになお力をあたえ。
 もうもうたるけむりは、そのいろをやみにそがれがちで。
 それでも。中天のたかみにいたると。
 厚い雲を摩するように、たけだけしくのびあがり。夜よりくらいいろになって、空をおおい。
 すさまじい炎とまいくるう火のこにてらしだされ。雪と冬空はぐれんにそまり。
 おびただしいサイレンの音がかけぬけて。