やけどのあとがへこんだといっても。ちかくでみると、ひどく醜悪で陰惨な。蛋白質のやけるにおいさえのこされ。
腹部のほうはたいしたきずもみあたらず、なめらかだが。みぎのわきばらとふともものにくが露出して。
きみょうなことに。ごましおの陰毛のなかから、うっけつしてふくらんだ性器がたれさがり。
しらがまじりの頭部のはんぶんはぬけおち。じはだがやけただれて。かおのひふもひきつれたまま。
それでも。瞑目した老人のひょうじょうはおだやかにみえ。
わたしは手をのばし。老人のとじられたまぶたにふれ。
酷寒の冬そのものを、いってんにあつめた、おどろくべきつめたさ。
あわてて手をはなすと。死体のまぶたがずりあがり。瞳孔をひらいたまま、死体の眼球がわたしをにらみすえて。
そのとき。ほねのなるおとが。にぶいけれど、よくひびくおと。どうじに、死体のうでがバネじかけのようにおれまがり。
わたしはせすじを氷のきばにかみつかれるような悪寒を感じ。あとずさりし。手術室をとびだし。おおきなあしおとをたてて、まっくらな廊下をかけぬけて。
手術室のドアのかげに。院長が。
むすこのはしりさったのをたしかめ。手術室に入り、死後硬直のはじまった老人のうでを。ぱきんぱきんと、音をさせながら。
すさまじい力でおりまげ。むなもとで、合掌させて。