手術台のうえでよこたわる死体が、あおいひかりのなかに。
腹部をしろい布でおおわれたむくろは。こおりつく寒さのなかで丸裸のまま。
アルコールで全身をぬぐわれ。やけどのはげしいただれも、ねつをうしなってはだにすいこまれ。
うごかぬからだは鉱物でできているかにみえて。ながいあいだ、筋肉労働だけにうちこんで。老人にはふつりあいなたくましい裸体が。
老人の死んだにくたいは。まぶたをとじられ。
蒼白なひかりとせいひつさにしはいされたやみのなかに。ぽっかりうかんで。
いつのまにか、手術室の両開きにされたドアのかたわらに。あおじろい顔のわたしがたたずんで。わたしは二階の勉強部屋から。だれひとりとしていない一階におりてきて。
ここで。はじめて死体を。
死体は。白蝋のあおじろいつやをおびて。
手術室のなかは、街燈のひかりがそそぐだけのくらやみ。
つくりもののような。感傷などよせつけないめいりょうな死のかたちが。
きれいだなとおもって、ふとあたりをみまわし。
けれども。ここにいるのはたしかに、わたしだけ。
あしおとをたてずに。死体にあゆみより、どうたいをおおった布をおそるおそるつまんで。死のひみつをかぎとろうとして。
えたいのしれないものにそそのかされているのか。わたしじしんにも、はんだんがつかなくて。