(こわれゆくもののかたちシリーズ)しもばしら

 かずおおくのけがにんがでて、炭砿病院には収容しきれず。うずら町の市街地のいくつかの個人病院にもけがにんがはこびこまれ。
 病院には患者の家族や同僚もつめかけて。
 除夜の鐘のなりおわるころ。ひとびとは病院からひきあげ。
 いえじをいそぐひとびとのかおを、北の空をそめるほのおのいろがおおい。
 ひょうじょうにも、あたらしい未来への不安をあらわす陰影がうつしだされ。

 父のやっている医院も、表玄関にかぎがかけられ。
 油烟や石炭のこなによごれた雪が。おしかけたひとびとの着衣や靴からとけだし。ぬかるみになった廊下も、すでにふききよめられて。
 看護婦がふたり、いのこり。二階の詰所で仮眠をとって。
 入院患者のための娯楽室では、安否のきづかわれる重傷者のかぞくが毛布にくるまり、うずくまり。

 さっきまで騒然としていた一階は。ひとのけはいもうせ、しずまりかえって。
 廊下のおくの手術室の、術中をしめす赤ランプはきえ。
 うらぐちにある非常口のみどりのあかりだけが、ぼんやりと。
 手術室の両開きのおもいドアは。あけはなたれたまま。
 死者をとじこめてしまわぬ配慮でもなされて。
 手術室のあかりとりの高窓からは。建物の外のすいぎんとうのひかりが。
 ふりつづく雪のらんはんしゃがもたらす、あやしい効果のため。
 いっそうあおみをおびて。