(こわれゆくもののかたちシリーズ)しもばしら

しもばしら

 つめをあてているだけなのに。ビュランでけずる音がして。
 くうかんの層をさかいに、へだてられた二重窓のそとがわのガラスに。きみょうなもようが織られ、凍みついた結露が。
 外気との温度の差が葉の形を変化させるのではとおもわせ。
 アラベスクをつむぎだす葉の厚さが異なるだけでなく。気温の質のちがいが広葉樹の葉と針葉樹の葉との相違をしょうじさせるのでは。
 わたしは、おとなたちのまえで。
 さむさがひどいと、松の葉のようにとがるんですね、
 といって。みょうな顔をされたことを。
 いやな気がして。

 わたしはたてつけのわるい内側のガラス戸を引き開け。とげとげしい葉叢に指をおしあてて。
 ひんやりした感触がおとずれ、すぐにきりきりとつんざくような痛みが。いたみがしびれとなり、針のようにとがって。
 指とガラスとのあいだでふいにかたさが溶け。いたみをやわらかく包みこむように。ぬれたガラスの表面が指先にじかにかんじられ。
 冷気からもたらされるいたみはあっけなく遠のいて。
 わたしは窓ガラスにはりついた指にちからをこめ。霜のまくに円をえがこうと。
 霜のまくが指のうごきにおされて水になり。氷のもようをおかしてゆくのが。指のさきで。
 その円も、直径で五センチほどになると、ひろがりをとどめ。